東京都調布市で70年にわたって事業を営む調布みつぎ不動産研究所は、農業も手がける、というよりむしろ農業にアイデンティティをおく、ユニークな不動産会社である。バブル崩壊以降、多くの同業者が倒産や廃業に追い込まれる中、農業で培った独自の考え方により、地域密着で継続的に発展し続けてきた。同社はいかにして地域の信頼を得、また信頼されるに足る社員を育てているか、その哲学と実践を、三ツ木孝さん、勝さん、秀章さん(いずれも「松下幸之助経営塾」卒塾生)に訊いた。

 

人も土地も作物も手をかけて育てる(2) からのつづき

 

<使命に生きる>
農と不動産で引き出す地域の可能性――part3

みずから考え、行動する社員を育てる(2)

平成二十二年からは、新卒採用を始めた。これによって、三ツ木グループの理念と仕事のスタイルが、当たり前のものとしていっそう社内に浸透することになった。

理念教育を担うのは、主に勝専務である。新入社員に対して一人ひとり個別に時間を取り、理解が深まるまで説明を重ねる。経営理念や基本信条は、字面だけを見て「いいことが書いてある」で済まされかねない。それらはどのような背景から生まれてきた言葉なのか。この会社で行なわれるすべての事業が、なぜこの理念にもとづいていることになるのか。これらを理解した上で、明日から取り組んでいく自分自身の仕事が、この経営理念と不可分であることを自覚する必要があるのだ。人財育成に対して、勝専務は次のような姿勢で臨んでいるという。

「人を育てることを通して、私たち自身も育てられていきます。経営者には確固たるものがあってそれを一方的に社員に教える、というものではありません。われわれ自身も学び、われわれ自身も成長する中で、社員と一緒になって企業文化をつくっていくものだと考えています」

その姿勢は、社長、専務、常務の全員が「松下幸之助経営塾」をはじめとした研修を通して率先して学んでいることにも表れている。

自創経営にもとづく人財育成は、「会社の役に立つ」社員を育てるために行なうものではない。あくまで社員が「人として」成長するために行なわれるものである。社員が自主的に自分の目標を設定して、進んで実行し、成果を上げるようになれば、会社としては大変好都合になる。が、それを目的にしてはいけないらしい。

「成果や利益を上げるために自創経営を導入してもうまくいかない、と東川先生はおっしゃいます。やはり、まず“人ありき”で、人の成長のためにこれをやらないと、うまくいかないのは当然だと思います。成果はあとからついてくるものです」(勝専務)

確かに、みずから考えることを強制したり会社の都合に合わせた自主性の発揮を求めたりすれば、結果的に「やらされている」ことになり、本来の目的とは正反対の行為になってしまう。

「自創経営が目指すところを突き詰めていけば、その人自身が成長する仕組みになっていることに気がつくはずです。社員が経営者的な感覚で自分の仕事にあたることは、会社のためというよりもむしろ、自分自身の成長に大変役に立つことなのです」(孝社長)

人生の時間を「仕事の時間」と「プライベートの時間」に分けたとする。このうちプライベートの時間は、その過ごし方を自分で決めている。では、仕事の時間はどうか。これが「自分で決めたのではなく、命令されたことをやらされている時間」だとすると、仕事の時間はとてもストレスフルになる。せめてプライベートの時間くらいは息抜きしたいと思うだろう。もし仕事の時間も、「自分が決めたことをみずから実践する時間」にすることができれば、仕事もプライベートも両方が自分の時間になり、人生の充実度はぐんと高まるだろう。

自創経営のねらいは、人生をトータルで充実させることにある。調布みつぎは、社員の成長を通して人生の充実を図り、その結果としての事業の発展を目指す。それは、手をかければかけるほど作物が自分の力で成長していくがごとく、人の成長を促す考え方であるといえる。

 

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三ツ木秀章常務(左)と三ツ木勝専務(右)

 

農と不動産による地域貢献

調布みつぎの原点である農業は、現在「農業法人調布のやさい畑」が行なっている。調布と八王子に約九〇〇〇坪の自社農園があり、キャベツ、キュウリ、大根など、あわせて一六〇種類もの野菜を扱う。毎日、早朝から家族とスタッフによる収穫と出荷作業が行なわれており、つくり手の顔が見える安全で新鮮な野菜は、安心して購入できると好評である。

土の恵みを地域で暮らす人々へ届けることは、先代から続く調布みつぎの根幹をなす事業だ。「調布のやさい畑」の直売所は、「深大にぎわいの里」という卸売センターの一角にある。ここには地場産の野菜のほか、鮮魚、食肉などを取り扱う三〇以上の商店が並び、業者、小売店主はもちろんのこと、一般の買い物客も多く訪れる。昔から「調布の台所」と呼ばれてきた「深大にぎわいの里」は、平成十七年に三ツ木グループが取得。調布みつぎでは、新たな地域貢献、地域交流の場として、ここをさらに充実・発展させていくつもりだ。

農地の所有者が、土地の売却で利益を得る話はよくある。だが調布みつぎは、農地を増やしながら不動産業に進出し発展してきた、珍しいケースであるといえる。儲かりさえすればどんな土地でも売買するのではなく、農地が作物を育てるように、その土地が付加価値を高め、地域にとってプラスになる事業に徹してきた。

「土の上、できること、すべて。」――このキャッチフレーズは、まさに同社の事業観を表している。調布みつぎは、地域の可能性を引き出す地場密着型不動産事業としての、一つのモデルを提示しているのではないだろうか。

 

(おわり)

 

経営セミナー 松下幸之助経営塾

 

◆『衆知』2017.1-2より

衆知17.1-2

 

 

DATA

株式会社調布みつぎ不動産研究所

[代表取締役]三ツ木 孝
[本社]〒182-0021
東京都調布市調布ヶ丘2丁目8番地2
TEL 042-481-1211
FAX 042-488-6561
設立...1967年
資本金...7,500万円
事業内容...居住用物件・事業用物件・トランクルームの賃貸、仲介および管理業務、土地・建物売買、建築・リフォーム業

 

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