東京都江戸川区に本社を置く株式会社ニットー住宅は、1970年に日東興業有限会社として設立。東京オリンピックが開催される2020年には創業50周年を迎えるという、地域に根付いた工務店である。天然素材である無垢材を利用した注文住宅が評判だ。しかし、かつては一般的な建売住宅を主力事業としていた。現社長の田中榮一郎さん(「松下幸之助経営塾」塾生)が大きく方針転換したという。きっかけは何だったのか、田中さんへの直接取材をもとにレポートする。

住む人の健康を考える 無垢の木の家(2) からのつづき

 

<使命に生きる>
わが子の病に直面、家づくりを問い直す――part3

誤解を解く努力が大事

「簡単な実験で、本物の木のよさがわかります」

 

田中さんはそう言うと、冷凍庫の中から二種類の木の板を取り出した。一枚は桐の板、もう一枚は合板のフローリング材。触ってみると、両方とも冷たいことは冷たい。しかし、合板からは鋭い冷たさが手に伝わってくる一方で、桐のほうはやわらかく感じる。表面温度を測ってみると、五度以上の差があった。しばらくすると、合板には表面に結露が生じたが、桐のほうは変わらない。合板は接着剤でガッチリと固めてあるので密度が高い一方、桐は内部に空気が含まれているため、いわばそれが断熱材の役割を果たして温度の変化を緩和するのだという。

 

湿度の調節をしたり、割れや狂いの少ない桐は、昔から高級木材として重宝され、桐たんすは嫁入り道具の象徴でもあった。難燃性にも優れていることから、火事に遭ってもたんすの中身は無事だったという話も伝わっているくらいである。

 

「昔から大工さんの間では、土台にはクリかヒバかヒノキを使え、と言われてきたそうです。クリの木は、かつて国鉄が線路の枕木に使っていました。重い車両が通ってもへこまないくらい丈夫なのです。ヒバやヒノキは腐りにくく、シロアリなどの虫を寄せ付けない芳香成分を持っています。そんな先人の知恵を生かした家づくりを、私たちはもっと追究していきたいと考えています」

 

田中さんは力を込めて語った。ただ、売るほうに志があっても、購入する側には「無垢材の家は価格が高く、手入れが大変」というイメージがある。田中さんからすると、それは「間違った思い込み」なのだという。

 

「しっかり乾燥した木材を使い、床下や壁内に風を通すことで木が長持ちします。寿命が三倍の家ですから孫の代まで住むことができる。長い目で見れば結果的には安いのです。また、無垢材は、物を落としてへこんでも、水をかけてアイロンを当てると元に戻る。品質がよいものはメンテナンスが楽だというのは事実なんです」

 

品質を落とさない代わりに、様々な面でコストダウンを図っている。モデルハウスがないことも、その一つだ。住宅展示場に出展するには億単位の費用がかかる。その上、解体費なども必要だ。広告宣伝のために莫大な費用をかけるのではなく、家づくりの中身で勝負する。土地選びからアフターサービスまで、各段階で専門家と直接相談できるワン・ストップ・サービスを実施しているのもその表れだろう。

 

モデルハウスの代わりとなるのが「OB見学会」である。これは、ニットー住宅で家を建てたお客様が、購入を検討している人に自宅を公開するイベントだ。実際に住んでいる人の生の声を聞くことが、一番の説得力になる。ニットー住宅の営業は、本物の価値を知るお客様に支えられているといえる。

 

経営者としての成長

「自然の力から人を守る仕事がしたい」というのが田中さんの初志だった。それが今は、「化学物質から人を守る仕事がしたい」に変わったのかもしれない。

 

田中さんが社長に就任したのは一九九七年、まだ三十代前半だった。経営についてはいろいろと学んできたつもりだったが、実際にトップに就いて、その責任の大きさを痛感した。そして、社員を引っぱっていくには自身が明確な方針を打ち出すこと、経営理念というよりどころをしっかり持つことが大切だと感じた。

 

様々な勉強会、研修会に参加した。「地獄の特訓」で有名な富士山麓での研修もいくつか受けた。経営計画書の重要性を知り、その作成のために懸命に取り組んだ。今も毎年改訂し、毎朝の朝礼や、毎週の社内セミナーで活用している。
特に、田中さん自身が変わったと思うのは、リーダーシップのとり方だ。社長を引き継いだ若い頃は、典型的なトップダウン型。会社のことはすべて社長が責任を負う。物事は責任の取れる人が決定するのがスジだ。したがって、社員は社長の方針の範囲内で実行するのみ――。

 

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社員が心がけるべきことはすべて経営計画書に書いてある

毎年見直し、内容の改善に努めている

 

これには社員、特に社歴の長い年長の社員から反発が起こった。それでも、「自分のしていることは会社を守るためであり、ひいては従業員の雇用の安定につながるはずだ」と信じた。ところが逆に、一人、また一人と社員が会社を去っていく。ほかにリーダーシップのとり方を知らないのでどうしようもなかった。「あの頃は社員に対して勝つか負けるかという姿勢で臨んでいました。ウィンウィンの関係であるという発想ができなかったですね」と田中さん。

 

そんなある日、多角化経営で有名なある社長のセミナーに出て、全く異なるリーダーシップがあることを知る。さらにその会社を訪問すると、みんなが楽しそうに仕事をしていた。お互いに意見を出し合い、ディスカッションをして、結論を導き出そうとする姿も見られる。当時のニットー住宅の職場にはない光景だった。

 

社長が叱咤激励して社員を動かすのではなく、社員が自発的に動けるようにするほうがいいのではないか――。従来のトップダウン型からの大転換である。特に、経営理念をしっかりと社内に根付かせることにより、社員に仕事を任せることを心がけるようにした。

 

一方、「本物の家づくり」を追究するという姿勢は不動だ。
「法隆寺の五重塔がなぜ千三百年も美しい姿を保っているのか。本物の材料を使っているからです。ところが、現代では『高いから』『手間がかかるから』などの理由で本物を使わなくなってきた。その結果、家は長持ちせず、住む人の健康を損なうことまで生じました。私たちは、住宅の判断基準を『本物かどうか』で見極めたいと考えています。それが住む人の健康と幸せに貢献すると確信しているからです」

 

ニットー住宅の「天然木スタジオ」に身を置いていると、確かに居心地がいい。生き物としての人間が自然に感じる感覚なのだろうか。化学物質が発生する材料は本来、人間になじまないものであることを示しているように思う。
健康や環境(エコ)に注目が集まる二十一世紀。ニットー住宅が時代の潮流に乗って業界の常識を覆していく姿を見守っていきたい。

(おわり)


経営セミナー 松下幸之助経営塾


◆『衆知』2016.9-10より
衆知2016.9-10

 

 

DATA

株式会社ニットー住宅

[代表取締役]田中榮一郎
[本社]
〒133-0065
東京都江戸川区南篠崎町3丁目11-2
TEL 03-3677-2111
FAX 03-3677-2151
設 立...1970年
資本金...1,000万円
事業内容...戸建て住宅の設計・施工・販売、リフォーム、不動産の仲介・賃貸業など


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