東京都江戸川区に本社を置く株式会社ニットー住宅は、1970年に日東興業有限会社として設立。東京オリンピックが開催される2020年には創業50周年を迎えるという、地域に根付いた工務店である。天然素材である無垢材を利用した注文住宅が評判だ。しかし、かつては一般的な建売住宅を主力事業としていた。現社長の田中榮一郎さん(「松下幸之助経営塾」塾生)が大きく方針転換したという。きっかけは何だったのか、田中さんへの直接取材をもとにレポートする。

 

住む人の健康を考える 無垢の木の家(1) からのつづき

 

<使命に生きる>
わが子の病に直面、家づくりを問い直す――part2

長男のぜんそくがきっかけに

当時のニットー住宅は、建売住宅の販売を主としていた。ほかに不動産会社の下請けでも住宅を受注し、年間八〇棟以上建てていた時期もある。ただ、建売住宅の場合は売れて初めて収益が上がり、売れなければデッドストックになる。建売事業だけでは、なかなか経営が安定しないのが田中さんの悩みだった。

 

「JIO(日本住宅保証検査機構)から一〇〇棟無事故で表彰されたことがありました。同じく表彰された会社の中に、二〇〇〇棟無事故という建売業者があったのです。『すごいことだなあ』と感心しました。ところが翌年、その会社は倒産してしまったのです。安全という原則をあれほど大切にした会社にしてこの有り様ですから、建て売り中心から脱しなければという危機感を抱きました」

 

そこで、注文住宅への移行を目指すとともに、賃貸事業へも進出し、経営の安定化を図った。

 

そんな折、田中さんは「住宅とは何か」について考えさせられる出来事に遭遇する。結婚して長男が生まれた時、鉄筋コンクリート造りのマンションに住み始めた。申し分のない、最上階の角部屋だ。
ところが、夏になるとコンクリートが太陽の熱を吸収し、夜に外気温が下がっても輻射熱で部屋の温度が上がってしまう。冬は乾燥するので加湿器を使用したところ、明け方になると決まって窓ガラスに大量の結露が生じた。

 

そのうち長男がしきりにせきをするようになる。医者に診てもらうと、ぜんそくだった。いろいろな薬を処方されるが、症状はいっこうに改善しない。発作を起こして夜間の救急センターに連れて行ったこともたびたびあった。田中さん自身は健康で、病気とは無縁の幼少時代を送ってきたため、どうして自分の子供がこんな病気になるのだろうと不思議に思う。

 

小児科の待合室は、長男と同じような症状の子であふれていた。田中さんは「何か特別な原因があるのではないか」と疑問に思い調べてみた。結果、「シックハウス症候群」という言葉に行き当たる。

 

「本物の家づくり」に目覚める

まず、問題の原因が結露にあることがわかってきた。結露が生じると、カビが発生しやすくなる。カビが発生すると、それを食べるダニが発生する。そして、ダニのフンや死骸がエアコンなどによって室内の空気中に舞い、それを人が吸い込むと肺で拒絶反応が起こり、ぜんそくになるというのだ。

 

結露を発生させないためには、室内の湿度を調整できる建築材料を使えばよい。しかし、田中さんが住んでいた部屋は、床はビニール製のクッションフロア、天井と壁はビニールクロス、サッシは単板のガラスで、湿気を吸収する材料は皆無だった。また、これらの建材には大量の接着剤が使われており、そこからホルムアルデヒドなどの有害な化学物質が発生していた。つまり、家の中の空気そのものに体を悪くする原因があったのである。

 

「人を守るためにあるはずの住宅が、人を病気にしていたとは」

 

ショックを受けた田中さんは、自分たちが建てている住宅を真剣に見直さなければならないと考える。
柱も梁も、天然木ではなく、木片を接着剤でつなぎ合わせた人工木である集成材を使い、壁や天井は石膏ボードの上にビニールクロスで仕上げていた。現代では写真や印刷の技術が進化し、一見すると本物の木がそのまま使われているように見えるが、実はそれらは、集成材や、塩ビシートを施された合板なのだ。

 

「かつての日本には、本物の材料しかなかったのです。ですから、シックハウス症候群など起こりえませんでした」と田中さんは言う。材木に囲まれて暮らしてきた体が知っていることだった。

ただし、以前は今ほど木材の乾燥技術が進んでいなかったので、無垢材にはどうしても、ねじれや反り、曲がりが生じてしまう問題があった。そこで、反りが生じない集成材や合板が重宝される。さらに、高気密・高断熱の家がよいとされてきたため、家の中の空気の流れが止まり、化学物質が室内に充満するようになった。

 

「間違った“常識”のために、お施主様を不幸にしているというのが現実でした。自分の家族もつらい経験をしていたので、これまでの家づくりとは決別しなければならないと強く思いました」と田中さん。以来、有害物質を出さない天然木、湿気を吸収して適度な湿度を保つ自然素材を使った「本物の家づくり」にこだわっている。

 

◆(3) へつづく
 

経営セミナー 松下幸之助経営塾

 

◆『衆知』2016.9-10より

衆知2016.9-10

 

 

DATA

株式会社ニットー住宅

[代表取締役]田中榮一郎
[本社]
〒133-0065
東京都江戸川区南篠崎町3丁目11-2
TEL 03-3677-2111
FAX 03-3677-2151
設 立…1970年
資本金…1,000万円
事業内容…戸建て住宅の設計・施工・販売、リフォーム、不動産の仲介・賃貸業など

 

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