昭和三十六年ごろから、松下電器は海外からの賓客を迎えることが目立って多くなった。ソ連のミコヤン第一副首相もその一人である。

 そのとき、幸之助とのあいだでこんなやりとりがあった。

 

 「あなたのお国は人民を解放されたとお聞きしています。それはたいへん新しい行き方だと思いますし、敬意を表します。しかし、ぼくはぼくで、婦人を解放したんですよ」

 「それはどういうことですか」

 「以前、日本の婦人は、食事の仕度をしたり、洗濯をしたり、また掃除をしたりと、朝から晩までいろんな家事に追われて、ほとんど自分の時間がもてなかった。しかしぼくは、炊飯器や洗濯機や掃除機など、いろんな家庭電気器具をつくって、日本の婦人を台所から解放したんですよ。もっとも時間的に解放したということですけども……。だから、あなたのところは人民を解放し、ぼくは婦人を解放した」

 

 半分は冗談のつもりの幸之助に、ミコヤンは握手を求めながら言った。

 「あなたは資本家であるけれど、偉い!」