海外投資家への仲介を主とする不動産会社「光ホーム」は、企業方針に「いい加減なものはすすめない、いい加減なことはしない、儲もうかることだけをするのではなく、真にお客様の為になり、社会に役立つ、誇りの持てる会社になること」を掲げる。
この理念は、創業者の奥田和宏社長(「松下幸之助経営塾」塾生)に「不動産業」を一生の仕事と決めさせた壮絶な体験をとおして、その心に深く刻まれた“志”でもあった。
◆震災復興の現場で確信した仕事の意義(2)からのつづき
志を立てる
ブルーオーシャンにこだわる
それまでにも、光ホームの日本語のホームページを見て、海外から外国人ビジネスマンが問い合わせてくることは何度もあった。
「自分は『あくまでもブルーオーシャン(未開拓市場)で戦いたい!』という気持ちが強かったので、賃貸物件の情報サービスを提供しているスーモさん、アパマンショップさんなどに加盟する道ではなく、何か特徴のあることを独自路線でやりたいと考えていました。そこで、外国からのお客様に集中することにしたのです」
当時、ウェブの世界でも、多言語で海外に向けて集客する不動産会社はほとんどなかった。「ブルーオーシャンで戦う」ということは、それまでだれも進出していなかった分野で、ニーズに応える新たなサービスを展開するということ。つまり「人の役に立つ仕事を始めること」になる。
奥田さんがホームページで外国からの客を誘致し始めたとき、初めのうちは、一、二カ月の短期でマンスリーマンションを借りる顧客が多かったという。
「しかし、そのうち、一年とか二年とか『年単位で借りたい』という外国のお客様が増え始めたので、通常の不動産物件の仲介業も始め、バイリンガルの営業スタッフもそろえるようになりました」
徐々にではあったが、光ホームは、外国人向けの不動産仲介業で実績を積んでいった。
そんな二〇一〇年のある日、奥田さんは、知人から「日本の不動産に投資したいと考えている海外の投資家がいるので、何かいい物件を仲介してあげてくれないか」と頼まれた。
海外投資家への不動産仲介ビジネス
「台湾に住む主婦で、予算は一〇億円くらいという話でした。にわかには信じられませんでしたが、とりあえず物件を探しました。でも、東京の恵比寿で一七億円の物件しか見つからなかった。『ごめんなさい、この物件しかありませんでした』と伝えると、『それでいいです』と言われました」
奥田さんは、彼女をオーナーと会わせた。すると、オーナーは『きょう、別から引き合いがあって、一八億円九〇〇〇万じゃないと売れません』と言い出した。奥田さんは内心「話がちがう!」と腹を立てたが、台湾から来た主婦は「その金額で買います」とその場で契約したという。
「あとから聞いたら、その主婦は、ニューヨークにもドバイにも香港にもシンガポールにも投資用の不動産を持っていて、四〇億円で買った台湾の物件が八〇億円で売れ、四〇億円の資金が遊んでいたから『二〇億円くらいなら、買ってもいいかな』と思っていたそうです。そんな人が世の中にいるのかと、正直、驚きました」
このとき、奥田さんは、当時はどこの不動産会社も手がけていなかった「海外投資家への日本の不動産の仲介ビジネス」というブルーオーシャンに乗り出すことを決めた。
それから五年、日本の景気回復と円安の進行という時代の追い風もあって、「海外投資家向けの不動産の仲介ビジネス」は、現在の光ホームの収益の柱にまで成長したのだった。
グローバルビジネスへの道
「人の役に立つ不動産の仕事をしたい」という志で突き進んできた奥田さんは、今、不動産ビジネスに新たな〝夢〟を抱いている。
「これまで不動産業はとてもドメスティックでローカルな商売だと思われてきました。しかし、投資はそもそもグローバルなものです。たまたま二十年間マイナス成長で超円高だったため、日本の不動産は海外投資家から無視されてきただけです。松下幸之助経営塾の最後のしめくくりでも発表しましたが、私の夢は『日本の不動産を世界に開く』ことなのです」
小学五年生のときに一冊の本と出会い、“経営者になる”と決めた少年は、かつての〝夢〟をかなえて世界を相手にブルーオーシャンで勝負する経営者となり、日本の不動産事業をグローバルビジネスへと昇華させようとしている。
(おわり)
◆『PHP松下幸之助塾』2015.5-6より