トヨタ自動車のような大企業には、傘下に多数の企業がある。その各企業のトップは、グループ内のさまざまな仕事を経験し、経営者としての資質を磨いていく。トヨタの風土が育んだ経営者の一人として、トヨタ部品群馬共販の山口晋二社長(「松下幸之助経営塾」塾生)にみずからの人生の変転とその経営哲学を語っていただいた。

 

PARTS&HEARTSを継承して理想の商売を!(1)からのつづき

 

志を立てる

言われたことをやるだけでは仕事をしたことにはならない

山口さんには自分なりの仕事哲学があった。
仕事を行ううえで、若い時分から、「何のためにやるのか」を考えることを自分に課していた。
たとえば、上司からグラフの作成を頼まれたとしたら、「このグラフはどのような目的で使われるのか」を考えた。そういう目的であればこういう見せ方のほうがいいのではないか、別のグラフも一緒に見せたほうが分かりやすいのではないか、といったことを考え、頼まれたグラフ以外にも二~三枚のグラフを作成し、上司に提出する。
そうすると、毎回ではないものの、「おっ、これいいね」と言われることがあった。指示されたことをやるだけではなく、先回りして考え、上司の期待以上のことを行う。こうした気働きを利かしてするのが真の「仕事」ではないだろうか。
ただ、こうした仕事に対する姿勢が身についたのも、トヨタという会社の人を育てる風土のおかげだ、と山口さんは自身を分析する。

入社して二年目のころ、山口さんは作成した書類を上司から突き返された。理由は教えてくれない。自分なりに考えて修正し再提出するが、またNG。現在ならいじめかパワハラで問題になりそうだが、五回目でやっとOKをもらえた。考えることを習慣づけさせるための指導だった。
トヨタには、妥協を許さない風土がある。設計であれば、「最後の一筆」という言葉があり、図面を後工程に渡す最後の最後まで担当者は図面と格闘する。
トヨタの社員は総じてまじめで、ときに金太郎飴のようで個性がないと言われることもあるが、だからといって当然レベルが低いわけではない。

山口さんはこんな経験をしたことがある。
あるとき中途採用の面接を担当したことがあった。人事部からは、「トヨタの同じ年次の真ん中の人よりも優秀な人だけ採用してください」という指示があった。
実際に面接をしてみると、そうした人は少なく、一〇人に一人いるかどうか。このとき、山口さんはトヨタで鍛えられている自分たちの仕事のレベルは決して低くないことが実感できたという。

「言われたことをやるだけではダメだというのは、現在の仕事にも当てはまります。『Aという部品がほしい』と言われて、A部品をお届けするだけでは仕事ではありません。『A部品の交換作業に付随してB部品も必要なのではないか』と考え、それをご提案する。ここまでやって、ようやく“仕事”と呼べるのではないでしょうか。
もちろん、私たちのような部品販売会社の第一義は、お客様の車の整備に必要な部品を、必要なときに供給することです。そのために、メーカーと販売店が折半で出資を行い、会社をつくったという歴史的背景もあります。
実際、それだけでも商売としては成り立つのですが、私はそれだけでは、松下幸之助さんが言うところの『商売としての面白み』がないと思うのです。
直接のお客様であるトヨタの販売店や自動車整備事業者のために何ができるのかを考え、さらに、その先のお客様である自動車ユーザー一人ひとりのために何ができるのかを考えて行動していくことが、私たちの仕事なのだと社員にも言っています。
トヨタが部品販売という商売をやっている意味合いも、そこにあるのだと思います。
タイヤをはじめとした部品の消耗具合を見れば、そのお客さまがどのように車に乗っているかは見当がつきます。『このお客さまの乗り方なら六カ月後に交換が必要になる』と判断したら、六カ月後にフォローの連絡を入れる。特別なことではありませんが、これがなかなかできていないのが実情です。お客様の安心、安全、快適のためにそうしたことが当たり前にできるよう、お得意先に働きかけていきたいと考えています」

これが経営者として山口さんが、今の会社に求める高い志の上に定めた目標なのである。
 

トヨタ部品群馬共販4.png

整然とした作業場(左)/見事に分類されている商品の部品群(右)

 

PARTS&HEARTSを継承して理想の商売を!(3)へつづく
◆『PHP松下幸之助塾』2016.3-4より

 

経営セミナー 松下幸之助経営塾

 



山口晋二(やまぐち しんじ)

1959年生まれ。東京工業大学生産機械工学科卒業後トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)に入社。ベルギー、米国駐在を含め主にアフターサービスの領域でキャリアを重ね、2014年トヨタ部品群馬共販に転籍。’15年6月から同社代表取締役。

トヨタ部品群馬共販株式会社

[代表取締役]山口晋二
【本社】〒370-3522 高崎市菅谷町20番地302
TEL 027(372)1121(代表)
FAX 027(372)6939
設  立…1981年8月
資 本 金…1億円
従業員数…約190名
事業内容…自動車補修用部品・用品の卸売
会社URL…http://www.gunma-kyohan.co.jp/index.php