戦前の話である。幸之助がある幹部に言った。
「きみなあ、あしたから会社へ来なくていいから、魚屋へ二、三カ月、丁稚奉公に行ってくれ」
幹部は、幸之助が何か考えているのだろうと思って尋ねた。
「魚屋というのは魚河岸のことですか」
「いやいや、会社の近くの門真にも魚屋はいっぱいあるやないか。そのどこの店でもええから、行って勉強してこい」
真意を測りかねている幹部に、幸之助はこう続けた。
「今きみは、製品の在庫をだいぶ抱えとるそうやな。魚屋だったら、きょう仕入れたものは、きょう売ってしまわんと、あしたになったら値打ちが半分になる。そやからきょう売れるという見通しをちゃんと立てて仕入れとるぞ。その仕入れのコツを魚屋で勉強してきたらいい」