平和国家というけれど、わが国は激烈な交通戦争に日々敗北しつつあるのが現状である。年間の交通事故による死傷者は日清、日露戦争の戦死者より多くなっている。今こそ、国民総動員の決意で、繁栄・平和・幸福のための聖戦に挑まなければならない。

 

交通国難に非常事態宣言を!

発表媒体

PHP』1968年11月号 「あたらしい日本・日本の繁栄譜」

 

内容抄録

 要はお互い国民が日々敗れつつある交通戦争をどう認識し、どう勝ちぬくかということである。すなわち、われわれお互いが今日の交通問題を、これはある程度やむをえないものだとして、抜本的な対策を実施することなくズルズルと敗退していくか、それともこれを天下の一大事と考えて、国民総動員令のもとに勝利をかちとるまで戦いぬくか、今日にいたっては、この二つに一つの道しかないといってよいと思う。

 そのどちらをとるか、それはお互い国民の決意次第なのである。

 

 もしわれわれが、総力を結集してこの交通戦争に勝利を収めることができるならば、そのことによって単に交通戦争によるいわば戦死傷者が少なくなるばかりではなく、日本全体に非常に大きな発展がもたらされる。というのは、道路が整備、拡充され、スムーズな交通が可能になれば、今まで五時間かかったところが四時間なり三時間なりで行けるようになる。同時に事故の後始末などによるいわば金と時間のムダ使いも相当少なくなるから、社会各面における生産性が大幅に向上し、経済活動はいっそう活発なものになる。それはひいては、物価安定の大きな基盤にもなるであろう。また、道路が新設、整備されれば、地方の開発が促進されるから、その結果、人口の都市集中の弊も徐々に解消していくことができよう。このように、この交通戦争に勝つことによって、いろいろの問題を同時に解決できることにもなると思うのである。

 

 そう考えると、この交通大戦争は、お互い国民の繁栄、平和、幸福のために断じて負けられない、これこそ真の聖戦であるともいえよう。したがって、もしこの戦争を有利に導くために必要とあれば、私は憲法の改正さえ行なってしかるべきだと考えている。事はいわばそれほどに重大だと思うのである。

 いずれにしても、今日ここにいたって、わが国の議会は寸刻も猶予することなく、交通事故非常事態を宣言し、そのもとで議会の審議時間の三分の二は費やして、いかにすれば交通戦争を解消できるかということを、徹底的に審議し、その結果を国民に訴えつつ力強く実行していただきたい。それを、私は日々、交通大戦争によって生命の恐怖にさらされている国民の一人として、強く政治の衝にあたる方々に要望したい。そして、これは単に私一人の願いでなく、全国民の心からの要望であると信じて疑わない。為政者の強固な決意と適切な指示があるならば、国民は喜んでその対策の実施に協力し、交通問題解消のために全力を尽くすであろう。

 くり返していうが、今こそ交通国難に非常事態宣言を発すべきときなのである。