HOME > 著作から見た松下幸之助の世界
このコーナーは、松下幸之助について関心をお持ちくださった皆様に、さらに理解を 深めていただける場を提供するために作成いたしました。松下の膨大な著作・口述本のなかから「これだけ読めば、松下の考え方がわかる」という作品を大きく6つのジャンルに分けて系譜立てしたものです。現在、在庫切れの書籍もございますが、随時 電子書籍化を進めており、いずれ全作品をご購読いただけるようにしてまいります。
松下幸之助・PHPの考え方
"こんなバカなことはない。どこかがまちがっている。人間とは本来もっと尊く偉大な存在であって、お互いの自覚と協力いかんによっては、もっと平和で豊かで幸せな生活を送れるはずだ"
『PHPのことば』より
松下幸之助は単なる一企業の経営者ではありませんでした。世と人の繁栄、平和、幸福の実現を願い、その研究と実践に生涯を捧げた人物でもありました。『PHPのことば』の「序にかえて」で、その動機が記されています。
「終戦当時は食うに食なく、住むに家なく、働くに職のないといった状態でした。物の生産をしようと思っても、一向にそれにふさわしい施策が行なわれない。ヤミでボロ儲けをする人がある一方で、まじめに働けば働くほど窮乏していくといった社会の情勢でした。法を守ってヤミの物資を買わなかった判事さんが餓死するという悲惨な事件もあったわけです。そういった姿を見、また私自身も体験させられているうちに、よくわからないながらも、"こんなバカなことはない。どこかがまちがっている。人間とは本来もっと尊く偉大な存在であって、お互いの自覚と協力いかんによっては、もっと平和で豊かで幸せな生活を送れるはずだ"という思いが、日一日とつよまってきたのです。そして、そういう思いを多くの人びとに訴えてみたいという、矢も盾もたまらない気持ちから、PHP、すなわちお互い人間の真の繁栄と平和と幸福を求める研究と啓蒙の運動をはじめるようになったというわけです」
PHP(Peace and Happiness through Prosperity)とは、「繁栄による平和と幸福」を意味します。松下は企業経営にあたっても、利己的にならず、多くの人々が物心両面において豊かさを実現できるよう努力しました。
松下の「PHPの考え方」については、この『PHPのことば』や、それを再編集した『松下幸之助の哲学』にまとまっています。松下はこれらの書籍で自身の基本的な哲学を展開しており、その視野の広さと強い使命感を知ることができます。「松下哲学」を理解するには必読の文献です。
人間について - 人間観 -
人間は、たえず生成発展する宇宙に君臨し、宇宙にひそむ偉大なる力を開発し、万物に与えられたるそれぞれの本質を見出しながら、これを生かし活用することによって、物心一如の真の繁栄を生み出すことができるのである。かかる人間の特性は、自然の理法によって与えられた天命である
『人間を考える』より
松下幸之助には、人間の本質を追及するという哲人としての顔もありました。その主な考え方は、「新しい人間観の提唱」という力強い文章にまとめられました。以下がその冒頭部分です。
「宇宙に存在するすべてのものは、つねに生成し、たえず発展する。万物は日に新たであり、生成発展は自然の理法である。
人間には、この宇宙の動きに順応しつつ万物を支配する力が、その本性として与えられている。人間は、たえず生成発展する宇宙に君臨し、宇宙にひそむ偉大なる力を開発し、万物に与えられたるそれぞれの本質を見出しながら、これを生かし活用することによって、物心一如の真の繁栄を生み出すことができるのである。
かかる人間の特性は、自然の理法によって与えられた天命である。
この天命が与えられているために、人間は万物の王者となり、その支配者となる。すなわち人間は、この天命に基づいて善悪を判断し、是非を定め、いっさいのものの存在理由を明らかにする。そしてなにものもかかる人間の判定を否定することはできない」
松下は、人間こそが万物の王者であり、物心一如の繁栄を生み出す力が与えられていると考えました。松下は、いかに人々の繁栄、平和、幸福を実現できるかを問うなかで、人間の本質を理解することが必要だと悟ったのです。
松下の「人間観」については、この「新しい人間観の提唱」を収めた『人間を考える』に凝縮されています。同書にはそのほか「新しい人間道の提唱」も掲載されており、松下自身が考え抜いた人間のあり方を理解することができます。「松下人間論」の究極を知ることのできる一冊です。
PHP研究所を創設以来考え続けてきた人間の本質についてまとめたもの。昭和47年版には、「新しい人間観の提唱」と、有識者による「人間を考える」を読んでの感想を収録。昭和50年版では、有識者による感想を割愛、「真の人間道を求めて」を追加し、「人間を考える・第一巻」と改題した。
政治と経済と社会について - 国家観 -
人間の本性というものを正しく把握し、一方で物を豊かにすることを図りつつ、同時に他方で心の面を高めていく、そしてそこに物心一如の繁栄という好ましい姿を実現する、それが今後日本と日本人がめざすべき精神大国の真の姿だと思うのである
『遺論・繁栄の哲学』より
松下幸之助は晩年、松下政経塾を設立したように、政治に強い関心をもっていました。そして、国家にも経営の視点が必要で、政治も企業経営と同じく効率化を図るべきだと訴えました。
たとえば『遺論・繁栄の哲学』の中で、「民主主義政治は、大勢に相談するだけよけいに金と時間がかかるが、それはやむをえないんだという考え方は、一応は成り立つかもわからない。しかしながら私は、ほんとうの民主主義とはそういうものではないと思っている。というのは、君主政治であれ民主政治であれ、やり方によっては能率が高くもなり低くもなると思うし、むしろ金と時間のかからないようにもっていくところに、民主主義政治の妙味があるように思うからである」と述べており、「国家をいかにマネジメントするか」ということの重要性を真剣に考え、提言していたことが見て取れます。
松下の政治観や国家観の要諦は、この『遺論・繁栄の哲学』にまとまっていますが、日本が進むべき道についても力強い主張を行なっています。
「われわれ日本人が今後めざして進むべき、軍事大国でも単なる経済大国でもない、より好ましい新たな目標はいったいどういうものかということについて、私見の一端を述べつつ、皆さんとともに考えてみたいと思うのである。
それでは、いったいどのような目標をもつことが、日本とお互い日本人にとって最も好ましいのであろうか。いろいろ考え方があり、また人によって意見がさまざまであると思う。けれども私は、今日の日本の姿を見、あるいは今後の日本人お互いの幸せというものを考えてみるとき、掲げるべき目標はおのずと一つに絞られてくるような気がするのである。
それはどういう目標かというと、ひと言でいうならば“精神大国”というか“道徳大国”とでもいうべき姿を実現していく、ということである。(中略)
このように、いわば人間の本性というものを正しく把握し、一方で物を豊かにすることを図りつつ、同時に他方で心の面を高めていく、そしてそこに物心一如の繁栄という好ましい姿を実現する、それが今後日本と日本人がめざすべき精神大国の真の姿だと思うのである」
また本書には、現在の政治において重要課題として取り組みがなされている「道州制」について、さらには「無税国家」「収益分配国家」の発想や「観光立国」といった松下独特の国家観が網羅されています。そのほかにも、『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』には松下の理想とした日本の将来像が描かれており、ご一読をお薦めします。
“国是が忘れられている” “教育はいかにあるべきか”など、今日論じられている問題は、松下幸之助が日本の行く末を憂い警鐘を鳴らしてきたことに他ならない。
国事多難の今、改めて耳を傾けたい国策提言の書。
人生と仕事について - 人生観・仕事観 -
苦労は買ってでもしなければならない、そうしてこそ真人間になるのだ、ほんとうの筋金入りの人間になるのだ、単なる知識、学問ではいけないのだ、それを越えた強いものを心の根底に培って、初めて諸君が習った知識なり学問が生きてくるのだ
『社員稼業』より
松下幸之助はまだ9歳のときに丁稚奉公に出されました。それは幼い松下にとってつらい経験でしたが、そのなかで商売のイロハから人としてのあり方まで多くのことを学びました。この厳しい経験がのちの成功につながったのです。『社員稼業』で、こう述べています。
「苦労を厭うというような貧困な心弱いことではいけない、苦労はすすんでしなければならない、苦労は買ってでもしなければならない、そうしてこそ真人間になるのだ、ほんとうの筋金入りの人間になるのだ、単なる知識、学問ではいけないのだ、それを越えた強いものを心の根底に培って、初めて諸君が習った知識なり学問が生きてくるのだ、その根底なくしては学問、知識はむしろじゃまになるのだ、諸君の出世のじゃまになるのだ、こういうような教えを、私は聞いたことがあります。
そのときは、非常にひどいことをいうな、という感じもしたのですが、長い人生を経て、今かえりみますと、その言葉のいかに尊いものであるかを、しみじみと味わうのです」
人は困難に出遭ってこそ、つらさや厳しさに立ち向かう強さとそれを乗り越える力を身につけることができます。長い人生からみれば、貴重な機会だと前向きにとらえるべきではないでしょうか。
松下の「人生観・仕事観」については、「仕事のコツ・人生の味」という副題のついた『社員稼業』のほか、累計450万部を超えるロングセラー『道をひらく』がその真髄を余すところなく伝えています。また、『私の行き方 考え方』では、松下の半生を知ることができます。
豊富な体験の中から得られた興味深いエピソードを通して、 人間として、社会人としての心得、 心がけを語りかける現代サラリーマンの心得帖。増補改訂版および文庫版には、『週刊文春』誌に連載された「サラリーマン諸君!」の中から8編を選び、追加収録されている。
松下幸之助発言集ベストセレクション 第8巻
強運なくして成功なし
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻) 第8巻では、大学やカルチャーセンターなどで行われた、一般の人たちを対象にした講演の中から、「生きがいをどうつかむか」ほか6編を収録。
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻) 第9巻には、松下電器での朝夕会で社員に話した講話のうち、昭和8年から16年までのものを収録。
松下幸之助発言集ベストセレクション 第10巻
社員は社員稼業の社長
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻) 第10巻では、松下電器の新入社員に話したものの中から、「会社と運命を共にする心意気」ほか8編を収録。
リーダーシップ
指導者たるものは、できるかぎりとらわれを排して、ものごとをあるがままに見るようにつとめなければならない。そうしたあるがままの認識があって、はじめて適切な指導も生まれてくる
『指導者の条件』より
松下幸之助の「リーダー」としての側面を洞察すると、「人間の本質」というものを常に根底において、人と接し、育て、褒め、叱り、諭し、導こうとしていることがわかります。『指導者の条件』の最初に掲げた項目に、こうあります。
「人間の本質というものは変えることができない。それを変えようといろいろ努力することは無理である。というより、人間自身を苦しめることになる。だから、その本質はまずこれをあるがままにみとめなくてはならない。そして、その上でどうあるべきかということを考える。それが大切なわけである。これは人間にかぎらず、ものごとすべてについていえることであろう。
けれども実際にはなかなかそれができない。ともすれば、好きだとかきらいだとかいった感情や、自分の利害にとらわれてものごとを都合のいいように見てしまう。そうなると、真実と離れた姿しか見られないということになる。それでは正しい判断もできないし、事をあやまる結果になってしまう。
だから、指導者たるものは、できるかぎりとらわれを排して、ものごとをあるがままに見るようにつとめなければならない。そうしたあるがままの認識があって、はじめて適切な指導も生まれてくる」
まずは「人間」を知る。そのうえで、それぞれに応じた、適切な指導をしていく。それがリーダーとして何より大切にしなければならないことではないでしょうか。
松下の「リーダーシップ」についての考え方の要諦は、この『指導者の条件』にコンパクトにまとまっていますが、晩年に松下政経塾において塾生たちに語った講話や、塾生たちとの問答にも、企業経営のリーダーのみならず、社会全般に通用するリーダー論が述べられています。
マネジメント
経営は生きた総合芸術である。そういう経営の高い価値をしっかり認識し、その価値ある仕事にたずさわっている誇りを持ち、それに値するよう最大の努力をしていくことが経営者にとって求められているのである。
『実践経営哲学』より
松下幸之助は「経営の神様」とよくいわれます。しかし、その松下でさえ、経営の舵取りは難しいものだと認識していました。会社は多くの部門からなるうえ、刻々と移り変わる社会情勢、経済情勢に即応していかなければならないからです。そういう意味で、経営はいわば完成することのない生きた総合芸術であると、『実践経営哲学』の中で述べています。
「経営というものは、いろいろ複雑多岐にわたる内容をもっている。
分野ということ一つをとってみても、さまざまである。研究したり開発をする部門、それにもとづいて製造する部門、できあがった製品を販売する部門、あるいは原材料の仕入れ部門、そのほか経理とか人事といった間接部門がある。そうした経営における一つひとつの分野がみなこれ創造的な活動である。そして、それを総合し、調整する全体の経営というものもこれまた大きな創造である。
そうしてみると、経営は芸術であるといっても、それは絵画であるとか、彫刻であるといったように一つの独立したものでなく、いわば、その中に絵画もあれば彫刻もある、音楽もあれば文学もあるといったように、さまざまな分野を網羅した総合芸術であると見ることもできる」
経営は、理論やマニュアル通りにいかないことが往々にしてあり、その実践には経験に裏づけられたコツやカンが求められます。芸術とでもいうべきセンスが経営者には必要となってくるのです。
『実践経営哲学』をはじめ、『経営心得帖』や『決断の経営』など多数の経営書には、そうしたコツやカンを会得するヒントが詰まっています。そのほか、商売の要諦や人の使い方などについては、『商売心得帖』『人事万華鏡』『人を活かす経営』なども参考になります。
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻)
第1巻では、経営者を対象とした外部での講演のうち、昭和35年から38年にかけての、「商売は“私”のものではない」ほか6編を収録。
松下幸之助発言集ベストセレクション 第2巻
経営にもダムのゆとり
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻)
第2巻では、経営者を対象とした外部での講演のうち、昭和38年から40年にかけての、「経営者の責任感」ほか4編を収録。
松下幸之助発言集ベストセレクション 第3巻
景気よし不景気またよし
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻)
第3巻では、経営者を対象とした外部での講演のうち、昭和40年から44年にかけての、「不況を改革の転機として」ほか5編を収録。
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻)
第4巻では、経営者を対象とした外部での講演のうち、昭和44年から58年にかけての、「松下電器発展の要因」ほか6編を収録。
松下幸之助発言集ベストセレクション 第5巻
道行く人もみなお客様
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻)
第5巻では、松下電器の経営方針発表会など、社内向けに行われた講話の中から、昭和27年から35年にかけての、「お客様の番頭になれ」ほか6編を収録。
松下幸之助発言集ベストセレクション 第6巻
一人の知恵より十人の知恵
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻)
第6巻では、松下電器の経営方針発表会など、社内向けに行われた講話の中から、昭和36年から53年にかけての、「文殊の知恵が出る経営」ほか6編を収録。
『松下幸之助発言集』 全45巻から厳選された普及版。(全10巻)
第7巻では、松下製品販売店の経営者を対象に行われた講演の中から、「共存共栄の真の実現を」ほか6編を収録。
昭和49年に制作された『企業の社会的責任とは何か?』(非売品)を復刻したもの。ただし本文は、同書を『明日の企業に何があるか』(昭和50年刊)に収録するにあたって加筆修正したものを採っている。